世界を席巻しつつあるトルコのドラマ。イスラム圏だけでなく、欧米やアジアでも大ヒットしているそのドラマを放送禁止にしている国・・・それがサウジアラビアです。
オスマン帝国を巡る歴史的な対立
オスマン帝国が崩壊する以前は、メッカやエルサレムなどのイスラム教の聖地はオスマン帝国の支配下にあり、現在のサウジアラビアもおもな地域をオスマン帝国の統治下に置かれていました。
しかし、いくら同じイスラム教の国だとしても、異民族に支配されることを喜ぶわけもなく、当然何度も反乱を起こしていました。
そういった反発から、サウジアラビアは「オスマン帝国を美化している」として、「Kuruluş: Osman」などのドラマを放送禁止にして、自分たちの主張を盛り込んだ歴史ドラマ「kingdoms of fire」を制作して放映しました。内容的にはオスマン帝国に滅ぼされたマムルーク朝の抵抗をかっこよく描いたものです。
↓これは「kingdoms of fire」の予告編 結構お金がかかってて、これはこれで面白そう
このドラマでも描かれていますが、マムルーク朝を滅ぼしたセリム1世がムハンマドの正当な後継者「カリフ」を奪ったこともマムルークの子孫であるアラブ人からは恨まれています。
もっとも、せっかく作ったドラマですが、販売ルートの確立されていないサウジのドラマがトルコドラマのように世界的に成功するのは難しそうです。
しかもサウジの視聴者はyoutubeなどで「Kuruluş: Osman」を視聴しているらしい・・・(笑)
エルドアンは「カリフ」になろうとしている?
最近、アヤソフィアが博物館からモスクに戻されたというニュースを目にした方も多いと思いますが、これはトルコの保守派層に向けての人気取りだと言われています。
さらに最近はオスマン帝国を倒してトルコ共和国を建国したアタチュルクの功績を少しづつ破壊しているような話も聞こえています。
アタチュルクは「政教分離」を成し遂げて、トルコを近代国家にした国父です。しかし、イスラム法よりも現代法を上位に位置付けたため、保守派からは憎まれているようなのです。
アタチュルクがアヤソフィアを博物館にしたのは、複雑な歴史をもつアヤソフィアを中立化することでヨーロッパから敵視されないようにという配慮なのですが、保守層に押されてその配慮をやめてしまったため、ヨーロッパ、とくにビザンツ帝国の末裔を自負するギリシャは激怒しています。
国際問題になっても強行したのは、エルドアンは保守派の支持無くしては政権を保てないからです。以前都市部でエルドアン派の市長が選挙で大敗したにも関わらず、その選挙を無効化して選挙をやり直すという暴挙にでました。そういうエルドアンに不安を感じた富裕層やセレブは海外に移住し始めています。
イスラム保守層の願いはオスマン帝国の時のように、トルコが「カリフ」を擁立してイスラム世界の盟主にしたい。はっきり言えば「エルドアン大統領をカリフに」と考えているものもいるとか。
しかし、オスマン帝国に「カリフ」の称号が移る前にカリフを擁立していたマムルーク朝の末裔たるアラブ人にとっては、この動きは許せないかもしれません。
ドラマの放送禁止は「イスラムの盟主」になりたいトルコに対する「アラブの盟主」サウジアラビアの反発の現れのようです。
残念なことに 最近の世界情勢では政治が原因でドラマが放送できなくなったり、内容を変更したりが横行していますが、解決策は見つかりません。
そういうことに影響を受けない、自由なプラットホームがあればいいのにと思ってしまいます。