先日紹介した「アジズのジレンマ」の脚本を手掛けたベルクン・オヤの作品「エートス~イスタンブールの8人」もすでに配信済みのNetflixオリジナル作品です。
「エートス~イスタンブールの8人」の背景
このドラマで描かれているのは「現代トルコの社会」です。
トルコ共和国が誕生した時からトルコは「世俗主義」を標榜して、宗教的なことを強制しない社会でしたが、保守的な敬虔なイスラム教徒と折り合いをつけることに苦労しているようです。
まずは、登場人物について少し解説していきたいと思います。
- 保守的な家庭で育ち、ヒジャブを身に付けているメリエムは兄家族と同居して居て、週3回家政婦として仕事をしている。メリエムは雇い主のシナンに心惹かれているが、シナンはプレイボーイで複数の女性と関係をもっている。
- メリエムの兄嫁ルイヤは若い頃レイプされ、そのことで夫である元兵士ヤシンに負い目を感じているのか、精神を病んでいる。
- ヤシンは心を閉ざしているルイヤにいら立って、怒鳴ってばかり。両親の不和のせいか、息子のイスマイルは言葉を発することができなくなっている。
- 敬虔なイスラム教徒のヤシンはなんでもホジャ(イスラムの先生)に相談する。
- メリエムはよく気を失って倒れるため、医師の勧めで精神科のセラピーを受けることになるが、担当のペリは顔には出さないが「保守的な人々」を軽蔑している。
- ペリは「保守主義が声高に叫ばれるトルコ社会に不満を持つ」精神科医、グルビンにそのいら立ちを聞いてもらっている関係。
- グルビンは「保守的な姉」と、障害をもつ弟の治療方針について対立している。
- グルビンはメリエムの雇い主シナンの恋人。
- ペリの友人メリッサは女優。メリッサはシナンのセフレの一人。
- ホジャの娘は両親に隠れて友人とクラブに出入りしたり、世俗的な生活を楽しんでいる。
メリエムは田舎の保守的な地域と都会を行き来して生活をしています。都会の世俗的な生活をメリエムはどのように感じたのでしょうか?
ホジャの影響力
このドラマでは保守的な人々が、医師の助言より「ホジャ」というイスラム指導者の言うことを重要視している姿が描かれています。
イスラム教には「出家」という概念がなく、指導者といえども世俗の生活をします。このドラマに登場するホジャも、家庭を持ち、今は退職していますが公務員として働いていたという設定です。
しかし、医師の助言を聞かない人々に、医師であるピリやグルビンは不満を持っています。特に「進歩的な」ピリはそういう人々を見下していることを自覚し、そのことに罪悪感があります。
一方、周囲に進歩的な人々しかいないピリと違って、グルビンには敬虔なイスラム教徒の姉がいて、グルビンは姉と脳性麻痺の弟の治療法について対立しつつも、頭から否定するピリに対して嫌悪感を持っています。
普通の生活をしている世俗的な人々はグルビンのように「伝統的価値観を持つ人々」との軋轢に悩んでいることが垣間見られます。
個人的感想
主人公といえるメリエムは、第一話で意識を失って倒れましたが、その理由が最終話で判明します。意外な結末にちょっと笑ってしまいました。ほほえましいというか、そっちだったのね・・・って感じで。
都会と田舎を行き来するメリエムは世俗の世界と保守的な世界を行き来しているうちに世俗にあこがれてしまったのかと勝手に思っていましたが、どうも違ったようです。
一方、「保守の塊」ともいえるホジャやヤシンも、実は保守一辺倒ではなかったことも、世俗の権化ともいえるペリも、本当は保守派の持つ「温かい家庭」への嫉妬から保守派を全否定していたことも、考えさせられました。これはきっと私たちにも言えることです。人が何かを完全否定するときは実はそれに対して羨望の気持ちが隠れているーそれが私がこのドラマを観て得た結論です。
役者さんたちの演技も素晴らしかったですが、特に「アジズのジレンマ」で怪演した子役のギュクトゥ・イルディリム君が、打って変わって口がきけなくなったイスマイルを演じていて衝撃を受けました。天才ですね彼は!これからもいろんなドラマや映画に出てくるでしょうから注目していきたいと思います。
メリエム役オイキュ・カライエル Öykü Karayel
イスタンブール州立音楽院在学中にGüzel Şeyler Bizim Taraftaという演劇のオーディションに合格してデビューし、そこでの演技が評価され多くの賞を受賞、女優としてのキャリアを積むことになります。
その後、KuzeyGüneyというドラマで主役に抜擢されるなど、テレビに進出し、2016年にはオスマン帝国外伝の続編Kösem で、ディルバ・スルタンを演じました。
オイキュ・カライエルは美しくて演技も上手なので、注目しています。オスマン帝国外伝の続編キョセムをぜひとも配信してもらって、その演技力を確認したいですね!