オットマニアな主婦のブログ

オスマン帝国外伝にどハマリしたオットマニアな主婦の独り言です。(注意:ネタバレありですので、本編を観てから読んでください)

「新オスマン帝国外伝 キョセム」は「独裁者へのメッセージ」

昨今の世界情勢は、平和を謳歌してきた日本人にも冷や水を浴びせましたね。

勿論、ウクライナ侵攻以前にも戦争はあったわけですが、日本に住む私たちにとっては遠い世界の事の様に思っていた方の方が多いと思います。もちろん私自身もですが・・・これは反省すべきことですね。

ところで、「キョセム」をご覧の皆さまは、何となく気づいていらっしゃるでしょうが、このドラマは「独裁者の末路」を皮肉を込めて描いているのです。

このドラマが作られている時にトルコではクーデター未遂事件が起こり、シーズン1にズルフィカール役で出演していたMete Horozoğluが逮捕されました。

 

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なぜこんなことになったかと言うと、アタテュルクによるトルコ革命以後、トルコは一貫して「政教分離」「世俗主義」を標榜してきました。それはそれは徹底していて、イスラム法よりも共和国憲法を上に置き、男女平等、一夫一妻制、教育革命(アラビア文字からアルファベットへ)などを断行したのです。

その過程でイスラム教勢力を政界から追放し、服装なども学校などでのスカーフの着用を禁止しました。中でもオスマン帝国にとって「イスタンブール征服の象徴」ともいえるモスク化したアヤソフィアを博物館にしたことは、当時のトルコの地勢上英断だったのですが、これはトルコのイスラム保守層にとってはショックなことだったのでしょう。

しかしそのアヤソフィアも昨年エルドアン政権によってモスクに戻されてしまいました。エルドアン政権は「新オスマン主義」を標榜し、「過去の栄光」を取り戻したいトルコの保守派を取り込んでいます。

で、そのエルドアン政権は世俗派への圧力を強めていて、「風紀」を取り締まる方向に向かっています。それはドラマ制作の現場にも及んでいて、内容に口を出すことが多くなっています。

 

もともとムラト4世は「奪われたバクダッドを奪還した英雄」であると同時に、「市民を虐げた独裁者」でもあります。

ムラトの「怪力無双」で、「戒律に厳しい」という保守層に好まれる素材を、制作側も盛り込んで作っているので、当時のトルコの視聴者はムラトに「独裁者」である「エルドアン」を重ねてみていたことが分かります。

 

キョセム放送時の政情

キョセムが放送を開始したのは2015年11月なのですが、この年エルドアン現大統領が憲法改正後初の大統領選挙で勝利し、世俗主義への攻撃が始まりました。

ネットの記事などで「キョセム」が取り上げられると、批判コメントが殺到するようになってきます。どうも宗教保守の方々にはキャストもお気に召さなかったようで、特にベレン・サートにはひどい中傷が行われています。

※不思議なのはコメントの中に、「不健全」だの「女嫌いの皇帝」だのというコメントがちらほらあること。S1に「女嫌い」なんて登場してましたっけ?

 

これに反発した大学関係者や芸能人、文化人は抗議活動を始めます。

 

この過程でドラマの内容に対して当局から指導が入り、罰金を受けています。

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2016年6月、キョセムS1の放送が終了、その後7月に「クーデター未遂事件」が起こり、それを口実に「世俗派」の多くの文化人、学生、学者などが逮捕されます。この中には上に上げたズルフィカール役のMete Horozoğluも。

当然、ドラマ関係者にも捜査の手が及んだでしょう。

しかもクーデター未遂事件後、トルコ国内は3か月ほど非常事態宣言下にあり、このような状況でS2の撮影は行われていたのです。

 

 

残念ながらトルコドラマは視聴率や「外圧」によりストーリーやキャストが変えられることがしばしばあるので、それ自体は仕方ないとは思います。しかし、その「外圧」が「当局」であるのは戴けません。特に適度に世俗化されたムスリム文化はトルコドラマの価値を上げていると思います。エンタメに規制をかけすぎると業界の衰退につながる可能性がありますので、トルコドラマファンとしては、あまり締め付けをせずに、適度に世俗的な部分を保っていて欲しいと願っています。

 

 

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