先日バイデン大統領にジェノサイド認定され、トルコが反発しているとニュースになっていたオスマン帝国末期の1915年に帝国内で行われた「アルメニア人大虐殺」をテーマにした映画「消えた声が、その名を呼ぶ」がhuluで配信されています。
「消えた声が、その名を呼ぶ」 あらすじ
主人公アルメニア人のナザレットは、自宅に踏み込んできた官吏に強制労働に駆り立てられ、家族と引き離された上、強制労働中に喉を切られて話すことができなくなってしまう。
苦難の末生き延びたナザレットは家族を探しまわるが、娘たちが保護されていた孤児院で結婚するためにキューバに渡ったことを知らされ、海を渡るが、娘たちはすでにそこにはいなかった。
ナザレットは娘たちが移住したというアメリカに向かう。
アルメニア人大虐殺とは
19世紀末から20世紀初頭にオスマン帝国領内でアルメニア人に対して行われた強制移住やそれに抵抗する人々を虐殺した行為を指します。
この期間に殺害されたアルメニア人は100~150万人といわれ、「ジェノサイド」に当たると以前から指摘されていましたが、このほどアメリカのバイデン政権はこれを正式に「ジェノサイド」と認定しました。
これにトルコのエルドアン政権は反発し、近くそれに対して声明を発表すると述べています。
アルメニア人とトルコ人
オスマン帝国東部ではクルド人勢力が独立運動などを行っていて帝国からの弾圧を受けていましたが、同じ地域に住むアルメニア人は19世紀頃までは特に反抗的な行動もしていなかったため、帝国との関係は良好でした。
しかし、西側諸国の影響でカトリックへの改宗が進むと、ムスリム住民との関係が悪化し帝国に目をつけられるようになっていきました。さらに西側諸国との交流から「民主主義」という概念を知ったアルメニア知識人らは次第に帝国支配からの脱却を考えるようになっていきます。
おりしもオスマン帝国は周辺地域との戦争で領地を奪われて発生した難民がアルメニア人らが居住する地域に流れ込みましたが、そういう難民らはキリスト教徒に憎しみを抱いているものが多く、ますます状況は悪化していきました。
帝国支配からの独立を画策する勢力がオスマン官僚を襲うテロ事件を起こしたことをきっかけに帝国によるアルメニア人弾圧が始まったのです。
現政権と「アルメニア人大虐殺」問題
2007年アメリカに移民したアルメニア人たちが働きかけ、米民主党主導の米下院外交委員会がこれを「オスマン帝国によるジェノサイドである」と認定し非難決議案を採択。しかしトルコ政府は「一方的な解釈によるものであるとして反発し、即座にワシントン・ポスト紙に反対意見広告を掲載しています。その他にもトルコ側は外務大臣を訪米させ、イラク戦争に不可欠なインジルリク空軍基地を米軍に使わせないことを示唆するなどの抗議行動をしている。
しかし2019年10月に下院はこの非難決議を可決。そして、2021年4月23日バイデン政権はそれを米国として正式に認定しました。
感想
大変重苦しいテーマで、映画の前半は見るのもつらいような場面ばかりです。それでも主人公ナザレットは家族との再会を心に誓い、言葉を失ってもなお必死に生き延びます。
彼は解放された後は家族を探すために費やし、地球の裏側まで娘たちを捜しに行くのですが、そこでも苦労の連続です。その執念は本当に心を打たれました。
このような人たちはこの時代たくさんいたのでしょう。彼らが新天地を求めて渡ったアメリカ・・・その彼らの子孫がアメリカで「ジェノサイド認定」を求めて訴えを起こした訳で、そう考えると今度のジェノサイド認定も彼らにとっては長年の願いだったのでしょう。直接ジェノサイドを受けた人々はもう生きていないでしょうが、彼らの子や孫はこのことを決して忘れるはずはないですよね。
ただ、あえてトルコ側の立場から見れば、この時代は少数民族のオスマン帝国からの独立運動が盛んで、テロ行為も頻発していました。そのため少数民族が徒党を組まないよう、彼らを引き離したのだということになります。もちろんだからと言ってこのような蛮行は許されることではないですが。まあ、現在のトルコ共和国がやったわけではないと突っぱねないだけえらいというべきなのか?
いかがでしたか?今話題のアルメニア人大虐殺を知ることができる「消えた声が、その名を呼ぶ」は、娯楽作品ではなく、心にずしんと来る映画です。
興味がある方は是非ご覧になってみてください。